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『猫目のアヤカシ』 第一部 第一話  ブログ用五段 ~欲を喰らふモノ~

2008/11/14 06:45

      十二

「小山が死んだんだって」
「いい気味よ。あいつ女生徒に色目使ってたじゃん?」
「マジデー?」
 ざわめきが学校の中を支配していた。廊下、教室の中を飛び交うのは、無責任な噂だった。言葉が無造作にしかも沢山溢れている。
 美術部の顧問の変死。住宅街の市街地で上半身とか半身が引き裂かれた形で、発見された。まるで獣の牙で食いちぎられた様な、無惨な死体。内蔵の一部は、文字通り食べられていたそうだ。
「熊?」
「熊が人間の内臓なんか食べられるわけ無いじゃん」
「そもそも、伏見区のど真ん中に熊なんかいるわけないじゃん」
 沢山の人の声。そこには無責任な憶測が、混ざっていた。
 桜は、一人、教室にたたずんでいた。時間が流れてる。
 物憂げな表情で、窓の外を眺めている。
 眼下には、部活動にいそしむ生徒達がいる。が、天候が優れないせいだろうか?
 人の姿はまばらだった。それはいつものように並んでいるのではなく、ポツリ、ポツリと点在していた。まるで、今振っている雨のようだ。その数も時間と共に一つ一つ消えてゆく。校舎、部室の中へと吸い込まれてゆく。
 変わりに傘の花が咲いて校外へと流れてゆく、下校の時刻だ。
 その全てが消えたとき、おもむろに静は腰を上げた。
 今日の部活は休みだった。顧問にあんなことがあったのだから、仕方ない。
 桜は、一人部室へと向かう。美術室のドアに手をかけた鍵をポケットから取り出すと扉を開けた。桜は後ろ手にドアを閉めると自分が描いている途中のキャンバスを無造作に取り出し両手でもって眺める。
 ふっと表情をゆるめた。満足そうにそれを見つめている。
 キャンバスに描かれているのは、獣。
 腹の膨らんだ、醜悪な餓鬼が描かれていた。それが肉を喰らっていた。人にすがりつき、はらわたを引き裂き、人の中にあるぐろぐろとしたものを喰らっていた。
 そんな絵だった。
 うっとりと桜は頬をゆるめる。でも、まだ足りない。
 もっと、もっと……。
「もっと……そう、もっとよ」
 小山の臓器は喰らわれていたと言う。あの醜悪な男の腹の中にも、あの赤々として、どろどろとしたモノが収まっていたのだろうか?
 それを想像したとき、つま先から膝、そして、股の付け根、股間、腰、胸元、髪の毛の全てが、ぶるりと震えた。
 股間に熱くたぎるモノを感じ、桜はふぅとため息をついた。思わずスカートの中に手を伸ばし、己の股間に手を伸ばした。
「死んだら、どうなるのかしら? わたしもあの肉塊になれるのかしら」
 自分のその姿を想像するだけで呼吸が熱くなる。ハァハァと、整った形の唇から熱い吐息を吐き出した。自分の中の高ぶり、その熱を排泄しさましている。
 その時だ、桜は誰かの視線を感じて、振り返った。
 当然だが、そこにはなにもない。
「気のせい?」と呟いて、瞳を閉じる。
 気持が高ぶっているせいで、どんな些細なことでも気にしてしまっただけなのだろうか、桜はそっと股間に忍ばせようとした指先を泳がせ、振り返った。
「えっ?」
 のそりとした丸太のような太い腕が、遠心力をともなって桜の身体を襲った。
「なっ、なに!」
 ほとんど、本能の行動だった。足は床を蹴っていた。
 自分の心臓のあった位置をそのナイフのように鋭い指先が奔っていた。
 びりぃっとただ、一度だけ鋭く布を裂く音が響いた。桜は大きく尻餅をついた。
 大きな腕。常識では考えられないぐらいに太い。その指先はまるでノミのように無造作に太い、指先は鈍く輝いていた。その爪の色は、毒でもつまっているのではないかともうぐらい毒々しい紫色。手首を曲げ、獲物を狙う猫のように不器用でごつい腕をフラフラと泳がせている。
 腕から、身体へと視線を移した。
 自分が、描いていた餓鬼のようだ……。
 桜はそんな感想を持って、それを眺めた。
 ぶっくりと膨らんだ腹、そして浮き出したあばら、下半身はなにもまとわず、腕よりも太い足。呼吸をするために開いた口のなかから醜悪な臭いを放つげっぷが桜の顔を襲った。
 生ゴミのような臭い。
 思わず顔を背けたくなる。
 じりじりと、それは桜に肉薄してくる。
 桜は大胆に股広げ、立ち上がろうと足に力を込めるが、膝は踊っていた。
 腕を床について体を起こそうとする。
 だが、力が籠もらない。
 立ち上がれない。
 なのに――
 怖くなかった。
 じっと、自分を襲ってきた異形を無表情の眼差しで見つめる。
 ふいに、ずくりとお腹がうずいた。
 同時に異形は、桜に向かって襲いかかってきた。
 床を激しく蹴りつける。
 リノリウムの床が、ばきりと異形の足の爪によって爆ぜる。勢いをつけて少女に襲いかかった。
 桜は、冷めた眼差しをしたまま、自分が喰われる様を見ようとする。
 不思議と自分は笑っていることに気がついていた。

        『猫目のアヤカシ』
        ~欲を喰らふモノ~
     第一部 第一話  ブログ用五段 了

     次回 第一部 第一話 最終話予定です。
                           第六段は、来週金曜日更新予定です。
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