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『猫目のアヤカシ』 第一部 第一話  ブログ用四段 ~欲を喰らふモノ~

2008/11/07 21:30
      十一

 その口には赤いモノを滴らせていた。大きく開けた口から覗く牙。
 牙の隙間に肉がはさまっていた。赤々とした生々しい肉片。
 肉がこびりついた牙を使い豹魔に向かって噛み付こうと肉薄する。
「右ッ!」っと静の声が聞こえたとき、豹魔は大きな風をいなすよう姿勢を地面すれすれまで落とした。風が抜ける一瞬、たたんだ膝を起し、全身のバネを解放するように腰を上げる。足が産んだエネルギィを螺旋を描くよう腰をまわして上半身へと伝える。腕から先端の杖に伝わったとき、アヤカシの両脛を凪いだ。
 力の衝撃が、まっすぐ突風の様に駆け抜けるはずの暴風を、竜巻のように縦のくるくると回るエネルギィへと変化させる。暴風は顔面からアスファルトに衝突し、轟音を上げ地面に突き刺さった。
 豹魔は、さっと身を翻して中尸と向き直る。
 彼の身体を破壊するはずのエネルギィは予想もしない形で己の身体に帰ってきた。この程度で、沈むような存在ではないことは、豹魔が一番よく知っている。
「くっ! また……またか!」
 その時、いきなり豹魔がサングラスの上から左目を押えた。意味もなく、たたらを踏んで、バランスを崩しそうになる。
 絶好の追撃のチャンスなのに、間合いも計れず攻められない。
 豹魔は強く唇を噛みしめると舌を軽く噛み切る。痛みで意識を覚醒させると杖をつき身体の体勢を整え叫んだ。
「静! ヤツはどこだ?」
 豹魔の眼前にいるはずなのに、気がつかない。彼は杖で身体の姿勢を保つのがやっとだった。
「右足のつま先の方向、約三間の距離です!」
「ちっ、そこか?」
 静の声が届くや否や、豹魔は杖を構え、間合いを詰め、追い打ちをかけようと、足を滑らせた。だが、一呼吸の分、遅かった。
 足が、太いつま先が豹魔の頭めがけて落ちてくる。
 剛撃。まともに頭で受ければ頭蓋が割れる。ぞくりとするモノを感じて、豹魔は足を止めた。むしろ地を蹴って後方に飛ぶ。そして膝をついて着地をした。
 ぬるりとするモノが額から滑り落ちる。
 汗にしては、粘性が強く、重い。
『豹魔』と猫が叫ぶと同時に地面に落ちていた石がつぶてとなって、中尸に襲いかかった。バシバシと音を立てて、その身体を打ちつける。
 中尸はその身を起こした。
 三メートルはあるだろうか? 大きく餓鬼のように膨らんだ腹。獣のような口、牙が覗く、そして九十センチはあろうかという筋肉が浮かぶ太い腕。
 ゆっくり腰を落として、両手を地面につけると爪をアスファルトに食い込ませた。
 ぐはぁっと口を開け、牙をカチカチと打ちつける。
「やっと、見えてきた」
 豹魔は腰を上げ杖を構え直す。気配を感じながら、足を滑らせる。
 不意に、添え手を柄から離すと、右手を身体の後ろにまわし隠した。腰は一文字腰、大きく股を広げ。左手はそっと腰に添える。
 頬を伝うなま暖かいモノ、ぬるりとし汗よりも粘り着く。
 だが、気にならなかった。
 気配を探る。目の前に、台風のような大きなエネルギィが存在して、それは豹魔に向き合っている。
 中尸は、豹魔の一見すると隙だらけの構えを逆に警戒をしていた。
 早く来いと豹魔はじれる。この勝負は、長引かない。豹魔の頭の中にそれがあった。
 本気の殺し合いで、全力の力を使うのであれば、こうして対峙している一瞬にも、膨大な熱量が消費されている。それは妖怪が相手であっても同じだ。体力には限界がある。
 攻めなければ倒せない。逆に攻撃を仕掛けてこれば、その隙をついて迎え撃つことができる。
 その時だ。
 不意に空から黒猫が降ってきた。
 あまりに唐突な、その出来事に――
「えっ?」と静が顔を上げた。
『この異様な妖気は?』猫もつられて顔を上げたときだ。
 中尸の背中に、すたりと黒猫が着地する。
 その大きな体が、ブルブルと震えた。
「えっ?」
『なんじゃ?』
 ゆっくりと猫がその背中、大きく隆起した脊髄にとけ込んでゆく。
 ぞわり、ぞわりと、中尸の身体が痙攣するように震えた。
 豹魔の目の前の殺気が、さらに膨大なモノになる。
 のそりと脊髄から伝わって、臀部に伸びた底から、黒いしっぽが生え、額にあった髪の毛は、少しづつ抜け落ち、顔の口はグイグイと伸びてゆく。むき出しの牙はさらに鋭い狂気へと変貌する。腕が太くなり、体がさらに大きくなる。
 中尸は、なにか別のモノへと、変貌を遂げようとしている。
 その巨体の中にある力は、先ほどまで豹魔が対峙していた存在とは比べモノにならないであろう。
 問題はそこではなかった。この存在が持つ殺戮に対する衝動それも身体が膨張するのに比例して大きくなってゆくと言うことだ。
 豹魔の前で、明確にそれは意を持って育ってゆく。
 今よりも、はっきりと感じられる。殺そうという意志。その力強さ。どこかで感じたことのある力だ。
「この気配は、ヤツか……来たんだな」
 豹魔は自分の口元が、凶悪にゆがむのを感じていた。尻がむず痒くなる。
 望んでいたモノが来たのだ。
「……やろうぜ」
 右手で握る杖の柄、鍔元にある金具に指をのせる。親指を歩く引っかけるようにして、くるりと軽くまわした。
『豹魔? ここは引くぞ!』
 目の前で異形に育った怪物。それを見て、猫は畏怖を感じていた。
 正確には中尸に恐怖を感じたのではない、ふつふつと大気を焦がすほどの熱を籠めた豹魔にだ。
 豹魔の中に狂おしいほどの怒りが産まれているのが目に見えて分かった。
「豹魔さん! 落ち着いて!」静もそれを見て取ったのか、いさめるように大声を上げた。
 だが、豹魔の耳には届いていなかった。
 豹魔は、無造作に右足に力を込め、ずっと左足を引きずるように半歩前に出た。
「豹魔さん! プルヌス様に従って下さい」悲鳴のような静の声。聞こえない。
「やっと会えたんだ……」
 豹魔の顔には歓喜が浮かんでいる。だが、かっては中尸だった異形は答えない。
「今度は、逃げるなよ。最後までおれと殺るんだ」
『引くのじゃ! 豹魔』
 プルヌスの静止の声も聞かずに、豹魔は大地を蹴った。
『豹魔!』
 豹魔は憎しみを交えた一撃を力強く振り下ろした。



        『猫目のアヤカシ』
        ~欲を喰らふモノ~
     第一部 第一話  ブログ用四段 了

                           第五段は、来週金曜日更新予定です。
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