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『猫目のアヤカシ』 第一部 第一話  ブログ用三段 ~欲を喰らふモノ~

2008/10/31 20:20
      九

 夜の路地。住宅街を静寂が包んでいた。
 小さく無数に走る路地を少女と杖をついた青年と白猫の二人と一匹の奇妙なトリオがひたひたと歩いていた。
 青年は杖の先端で地面を叩いているが、先導は少女が行っている。
 不意に白猫が口を開いた。
『ところで、戦う前に一つおさらいしておきたいのじゃが、よいか?』
「おさらい?」
『うむ、我らが今から狩るモノのことじゃ、敵を知り、己を知れば百戦危うからずと言うであろう?』
「最後の残っているのは、彭常子(ほうじょうし)だろ? 獣の姿をした虫で、人の欲を喰らう」
『喰らうのではない。三尸は元々人の身体に棲む虫で、泰山府君の使いなのは知っておるな?』
 猫はひたひたと前を歩きながら、後を歩く豹魔と静に語りかける。
「司命神じゃなかったんですか?」と静。
『泰山府君じゃ、今、力が残っておる数少ない神の一人じゃしな』
「三尸は人の善行、悪行の行いを常に監視して、庚申の日にその人の行いを地獄の閻魔様にまで、報告をしに行くんだよな。それによって寿命が決めるんだろ?」
 豹魔は、静に手を引かれながら、答えた。
「プルヌス様。今回豹魔さんに命が下って、狩っているのは、三尸なんですよね?」
『そうじゃ。現に三頭いたであろう?』
「わたし、どうしても納得できなくて……」
『なぜじゃ?』
「三尸が出る時期から少し離れてると思うんですよ」
「暦の上での三ノ庚申は五月の末日ですよね。なんで、今になって三尸が暴れてるんでしょう」
『いまじゃから、三尸が暴れておるのだ。今日は六月の半じゃろう? 必ずしも抜けた虫が、すぐに活動をするとは限らぬであろう?』
「力を蓄えていたってことですか? プルヌス様」
『そうじゃ、影響が出るまで半月以上の月日がかかる。皮肉なことに三頭いたからこそ、こっちも早く対処できた』と猫は苦々しく呟く。
「その分、被害者もでた」と豹魔。
『うむ、そうじゃな。しかも狩人であるぬしらの間にも犠牲者は出でしもうた。じゃが本部の凪洟に増援を要請するわけにもいかぬ』
「なぜですか?」と静。
『関東も一杯一杯ということなのじゃろう。こちらはこちらでなんとかするしかない』
 猫の声はどこか弾んでいるようにも聞こえた。
「プルヌス様、楽しんでませんか?」と静。
『楽しんでなどおらぬ』と猫。『静、おぬし少し不謹慎ではないか』
「そんな……」
「静」と豹魔。
「はい」
「それでいいんだ。よけいな狩人や、退魔師をこれ以上、京都に呼びたくない」
 豹魔は、不意にポツリと呟いた。静は思わずかれの手の握る掌に力を込めた。猫も黙り込む。
「でも……。今回のは、なにか違うような……」静は、迷いながら頬に指を当てた。
『ふむ、静はそう感じるものがあるのか?』
 静の表情を見ながら、猫は不思議そうに首を傾げる。
「はい、どの虫も虫と呼ぶには……、プルヌス様はなにも感じませんでしたか?」
『いや、儂にはいつもの中尸の姿としか思えなんだが』
「一つ、一つの様子がおかしいんですよ。わたしの気のせいならいいんですけど……」
「そんなものは、どうでもいい」
 不意に豹魔が呟いた。静と猫の視線が集まった。
「俺が、倒すんだ。どんなヤツも、あいつも……」
 そう誰にもなにも言わせないほど重い言葉で呟いた。
『………』猫は、黙って豹魔を眺めている。『むっ!』
 不意に視線を前に向けると全身の毛を逆立て、身構える。
 喉の苦から絞り出すように強い威嚇音をあげる。
「っ!」静も顔を正面に向ける。
「静、俺の目になってくれ」
 豹魔の声に従い、手を離すとゆっくり後ろに下がる。
「お願い! わたしに力をかして」
 そう言うと右手をあげた。するとぶかぶかになっている静の上着の袖が膨らんだ。
 豹魔は、手にしていた杖を持ち上げ身構える。杖の柄握ると右手に力を込め左手は軽く添えるだけ。まるで杖を刀に見立てている。流れるように、そっと腰を落とす。膝をしなやかに曲げ、いつでも全身のバネを解放できる体勢を作る。
『わざわざ、向こうから出てきてくれたぞ』
「プルヌスもサポートを頼む」
『まかせろ!』と猫も狩猟の血を解放し、じりじりと全身の力を溜めに入るといつでも解放できるように四肢をたわませた。
 がしゃり。屋根の瓦を踏みつける音。
 向こうもこちらに悟られていることを隠そうとはしないらしい。
 見上げると、3メートルはあろうかという巨体を、今まさに獲物に襲いかかろうとしている猛獣の如く、屋根の上で四つんばいになって、そのつま先に力を溜めている。
「豹魔さん」と静。
『くるぞ!』とプルヌス。
 猫と少女がそう告げたとき、屋根の上で大きな力が爆発した。

      十

「はじまった」だれかが、うふうふと笑った。
 そっと空を見上げる。夜。
「さぁ、ぼくの元に届くかい?」
 うっとりと、告げる。
 にゃあ、と黒猫が鳴いて足下にすり寄ってきた。
「おまえか……」
 ゴロゴロと喉を鳴らして、さらに臭いをこすりつける。
「おまえも、様子が気になるのかい? うふふふっ、お前の出番はあるかな?」
 楽しそうに呟くと猫の身体を無造作に持ち上げ、夜空に放り投げた。
 猫は逆らわない。空中でくるりととんぼを切ると地に向かって行く、その姿を眺めながら両手を上げ夜に向かって声高に謳った。
「さぁ、ぼくの元においで……強くなって、強くなって、強くなって、強くなって、強くなって、強くなって、強くなって、強くなって、強くなって、強くなって、強くなって、強くなって、強くなって、強くなって、強くなって、強くなって、強くなって、強くなって、強くなって、強くなって、強くなって、強くなって、強くなって、強くなって、強くなって、強くなって、強くなって、強くなって、強くなって、強くなって、強くなって、強くなって、強くなって、強くなって、強くなって、強くなって、強くなって、強くなって、強くなって、強くなって、強くなって、強くなって、だれよりも強くなって!」
 黒猫の姿が、中空で霞となって消える。そこで一息をついて最後とばかりに叫んだ。
「きみは、ぼくと一緒にえいえんを生きるんだ!」



        『猫目のアヤカシ』
        ~欲を喰らふモノ~
     第一部 第一話  ブログ用三段 了

                           第四段は、来週金曜日更新予定です。
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