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『猫目のアヤカシ』  第一部 二話 ~闇に遊ぶモノ~ ブログ用一段

2009/03/09 02:16
 生きていた。

 ただ、無作為に生きていた。

 重い。重たい人生を生きていた。

 わずか14年だが、それでもわずらわしく、わたしの両肩にのしかかってきた。

 呼吸をするのもめんどくさかった。

 母も、父も、友人も、彼氏も、後輩も、先輩も、すべてがうっとうしかった。

 そんなときだった。
 わたしは、力を手に入れた。

 闇の中で遊ぶ力。

 ふつうじゃないちから。

    『猫目のアヤカシ』
      ~闇に遊ぶモノ~
              文 黒田百年
              絵 蔓

      一

 少女が社の屋根の上に立っていた。無造作に、さもあたりまえといわんばかりの姿勢をして。場所は、伏見稲荷の大社のその屋根の上。
 薄い空色のワンピース。腰には大きな青いリボン。プラチナロンドの髪の毛は、丁寧に結い上げ赤いリボンで止めている。おでこがさもチャームポイントだ言わんばかりに目立っていた。すんだ瞳をしていた。深く、吸い込まれるような青。深い森を散策しているときにふと見つける透き通った泉と同じ色をしている。
 その少女が、錫杖を手にして空を見上げている。その視線の先には、どんよりと暗い夜がそこにあった。
 暗い夜といっても、ただ暗い夜ではない。どんよりとしているのだ。
 星が浮かばない青黒い空に、重く沈みこんだ雲が、垂れ込めるようにどよどよと浮かんで、星空を覆い尽くしている。時折雲の切れ間から星は顔を覗かせるが、雲間に穴を穿つほどの力はない。月明かりも雲に駆逐され、よりいっそう、闇を濃いものにしていた。
「よくない兆候じゃな。しかし豹魔の奴。簡単な挑発に引っかかりおって、静の奴なにかを勘づいておったのかもしれぬな」
 しみじみと呟いてから、少女は、錫杖を掲げ大きく円を描くように振る。
「とりあえず、ゆくとするか。豹魔のヤツめ、わしも忙しいというのに余計な仕事を増やしおってからに」
 しゃらん! っと、すんだ金属音が、その錫杖の先端の金属が重なって大きな音を立てる。地面に光が走った。線を描き、彼女の足元でくるりと真円を描く。
 輪が閉じると同時に、屋根がほのほのと光を上げた。
 少女は錫杖を肩の高さで真横に寝かせると、整った口を開けなにごとか唱え始めた。
「――――! ―――! ――!」
 やがて輪から立ち上った光は、筋を作り、束となり、少女の身を包み込む。
 光は少女の全身を飲み込む、そして屋根の上から消えた。

      二

 うっすらと停滞した空気が、少女の部屋の中に堆積していた。
 ドアは閉じられ、窓も閉められ、外界と遮断された空間。
 不意に部屋の中の空気が動く。西安寺 桜(さいあんじ さくら)の部屋のドアが開いた。
 ゆらりとドアが開き、堆積していたはずの空気が踊った。
 薄暗い部屋の中に一人の美少女が、現れる、黒く長い髪の毛。
 桜は、セーラー服の上着が破れ、ブラジャーが丸出しの状態で、恥じらいも見せないままに部屋の中へと入る。
 手慣れた仕草で、無造作に上着とスカートを脱ぎ捨てベッドの上に寝転んだ。
 ベッドのスプリングが、きしんだ音を立てた。
 ぼんやりと自分が投げ捨てた上着を眺めている。
 破れた制服の上着と雨にぬれたスカートが、今夜の出来事が嘘でないと告げていた。
 信じられないものを見た。信じられないのは化け物がではない。
 あの青年の素顔、それを見た瞬間、思わず悲鳴をあげた。
 なんと言う瞳だろう。しかもそれはわたしを見ていなかった。
 異形。
 わたしはそれを見上げた。
 なのにかれはわたしを見ていなかった。それが許せなかった。
 わたしをこの世界から救い出してくれるものを目の前で殺したのだから。わたしを見るべきだったはず。わたしが描いたもの。わたしが創造したもの。それがわたしを殺してくれるはずだったのに。
 それを止めた青年。
 わたしの平手を受けて、悲しそうにつぶやいた。
「―――――」と。
 それだけ言うと、雨の中、消えてしまった。
 少女を伴って……。
 わたしは、雨に打たれたまま追いかけることができなかった。
 追いかけるべきだったのだ。
 なのに追いかけることはできなかった。
 見る間に少女に手を取られると二人そろって走り出しフェンスを飛び越え消えてしまった。
 途中、何度か少女は振り返ってわたしを見たけど、その足は止まらなかった。
 申し訳なさそうな悲しい顔を見せたけど、その足を止めることはなかった。
 血が含まれた雨。そして、わたしの目の前にいた使者は、うっすらと消えてゆく。
 全身を汚した雨。思わず、大声をあげていた。
 誰に伝えるわけでもなく、わたし自身が叫んでいただけ。
 悔しかった。悲しかった。そして辛かった。
 あの無機質な瞳が脳裏に浮かんだ。
 はたしてあの瞳は、少しでもわたしを見ていたのだろうか?
 わからない。
 そっと顔を腕で覆った。
 涙が、なぜか流れた。
 死に損なったからだろうか?
 それともあの瞳を見てしまったからだろうか?
 わからない。わからない。わからない。わからない。
 乱暴に手を投げ出した。マット上にわたしの腕が広がり、それを受け止める。
 しばらくして、わたしは、窮屈さを感じ体を起こした。
 制服は破れてしまった。明日、どうすれば良いだろう? 
 予備の夏服はある。だけど、学校には行きたくない。
 それならいっそのこと、さぼろうか? 
 それが良いかもしれない。そう考えると、なぜか、わたしのお腹がずくりと痛んだ。
 剥き出しのお腹の上をそっとなでる。
 なぜかもぞもぞと明確にわたしの体の内側で腸が動いたような気がした。


     『猫目のアヤカシ』~闇に遊ぶモノ~
     第一部 第二話  ブログ用一段 了
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