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猫目のアヤカシ ブログ公開に当たり

2009/03/28 00:21
猫目のアヤカシとは、現在創作オンリーイベントのコミティアで刊行されている伝奇小説のシリーズです。
京都を舞台にして、猫目と呼ばれるアヤカシと、そのアヤカシを追う狩人達の因縁と宿命とを描いた物語です。
挿絵は、紫電式の蔓さんに描いてもらっております。
とても美麗で躍動感のある挿絵を毎回描いていただき心より感謝しております。

紫電式 蔓君のHP

現在第三部の二話までが、コミティアのイベント会場で販売されております。
第三部まで進行した現在、イベント会場で過去の話が読みたいという意見をちらほら頂くようになり、ブログ上での公開をすることにしました。

毎週週末金曜日更新予定であります。

ただ、今現在の仕事の原稿の執筆状況などにより、公開が前後することもあります。
その点はご了承いただけましたならば幸いです。

わたしの生み出した物語が、あなたの一時の暇つぶしになりましたならば幸いです。


猫目シリーズ
猫目のアヤカシ ブログ用第一段 
初めての方はこちらからお読みください。

猫目のアヤカシ ブログ用第二段
猫目のアヤカシ ブログ用第三段
猫目のアヤカシ ブログ用第四段
猫目のアヤカシ ブログ用第五段
猫目のアヤカシ ブログ用第六段
以上が、第一部 一話です。

第二部はこちらからとなっております。
猫目のアヤカシ ブログ用第七段
猫目のアヤカシ ブログ用第八段

本日の更新
猫目のアヤカシ ブログ用第九段


週末に、第一部 第二話 ブログ用第四段を公開予定となっております。
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『猫目のアヤカシ』 第一部 二話 ~闇に遊ぶモノ~ ブログ用三段

2009/03/28 00:14
      五

「ふぅん。思ったよりもやるじゃないか」
 サングラスをした少年は、そこにいて、その様子を見下ろしていた。
 その腕には黒猫を抱いている。猫はごろごろと心地よさげに喉を鳴らすと少年の胸板に顔を寄せ、においをこすりつける。
「しかし、あのヤサオトコ、いったい何者なんだ?」
 猫がにゃあと鳴いた。少年は喉に指を当てるとそのままくすぐる。
「まぁ、いいか、いまさらコマが増えたところで、なにも変わらないし。どうせすぐにご退場願うことになるだろうしなぁ」
 そういうと頭を軽く掻いた。
「問題は、あれよりも僕の下僕を持ってちゃった人間だよな。まさか言う事聞かなくなるなんて思わなかったし。ねぇ? 君はどう思う?」
 少年は黒猫に語りかける。猫はなにも答えずにパタパタと尻尾を揺らした。
「君にわかるわけがないか、仕方ないよね」
 少年は猫を抱く手をぱっと離した。
 黒猫はすたりと着地すると見上げる。
「行きな」と少年。猫は未練を残してるのか動こうとしない。「適当にとりつくやつを見つけて悪さをするが良い」
 にゃあ、と猫が鳴いた。同時に闇の中に溶け込んで消える。そのとき、猫の足元でもぞりとちいさななにかが尺を取る。少年は、サングラスをかけなおして空を見上げた。
「豹魔は僕のもとにくる。でも、もう少し時間がかかりそうだよね。なんか僕の想像しない方向に動いてるみたいだけど……」少年は、言葉を溜める。
 月を見つめ「まぁ、いっか!」と、どこか楽しそうに声を上げた。

      六

 西安寺桜は翌日、学校に顔を出さなかった。
 結局彼女が、学校に登校したのは、あの事件があって三日後のことだった。
「なんで?」
 わたしは、絶句していた。
 美術室も、その窓枠も、そして校庭も、彼らが暴れた痕跡がそこにはなかった。
「先輩、風邪はもう良いんですか?」
 後輩に声をかけられて振り向いた。
「ええ、大丈夫。ありがとう」
 きゃーきゃーと彼女たちの声が、少しうるさかった。
 わたしはそれを無視して、あの青年が、わたしの書いたモノを校庭へと投げ飛ばした場所へと歩み寄る。たしかに窓ガラスは割れ、窓枠はへしゃげ、このコンクリートの壁も破壊して外へと投げ飛ばしたはずなのに。
「どうして……」
 あれを直すには、一日二日ではできないはずだ。なのに学校は元の姿のまま、わたしを出迎える。そっと窓枠に手を当て、撫でた。
「えっ?」
「西安寺先輩?」と後輩がわたしのことを呼んだ。
 だけどわたしは無視して、その窓枠にもう一度指を滑らせた。
 わたしの指先は、はっきりとその違和感を感じた。
 間違いなくペンキが、新しくなっている。昔と違和感を感じさせないように手は入れられているけど、間違いなかった。
「どうして?」
 はっとして、窓に手を当てると鍵を開けてみた。
 からからと、音を立てて動く。まるで油を差したみたいにスムーズだった。
「まさか」
 わたしは信じられなかった。だけど、これが答えのような気がした。
「先輩、どうかしたんですか?」
 再び、わたしのことを呼ぶ声が聞こえる。
 けど、耳には届かない。 
 あの夜、見たもの。そして聞いた。
 異形の瞳を持った青年がわたしに行った言葉。
 それを思い出した瞬間、ずぐりとわたしのお腹が動いた。
「いっ!」
 瞬間的に思い出す。あの青年の素顔。
「もういちど、あいたい……」
 思わず呟いていた。
「西安寺先輩、どうしたんですか?」
 そう言って、後輩達が駆け寄ってくる。が、ふとに足を止めた。
 少しおびえているさまが分かった。
 なぜだろう? 彼女たちに振り返って顔を見たワケじゃないのに。
 彼女たちは、わたしが、笑っていることが不気味に感じているのだと、なんとなく理解できた。思わず不思議に思って口元に指を当てる。
「ほんとだ」
 確かに、口元がほころんでいた。
 なぜ笑うのだろう?
 なにがおかしいのだろう?
 わからない。わからない、けど。
 一つだけはっきりとしている感情があった。
 あの猫の瞳を持った青年に会いたい。
「あって、ころしたい」
 そう……。
「こんどは、ころす」
 そう、わたしは、はっきりと感情を口にした。
 そう呟いた瞬間、その声が聞こえたのか、後輩達が走り去る。
 わたしは、気にしなかった。

    『猫目のアヤカシ』~闇に遊ぶモノ~
     第一部 第二話 ブログ用三段 了

『猫目のアヤカシ』  第一部 二話 ~闇に遊ぶモノ~ ブログ用二段

2009/03/20 20:29
      三

 三布袋豹魔(さんほてい ひょうま)は無言で立っていた。
 その手首に細長い紐が幾重にも巻き付いて、自由を奪っている。
 男が腕に力をこめれば、それはいともたやすく千切れてしまうのではないか? そう感じさせるほどに弱弱しい紐。それには、なにか文字が書かれている。呪文のようにも見え、また違うものにも見える。ミミズがのたくったような汚い文字だ。だが、それが時折黒い光を放ち彼の身体を覆ったり、しばったりしている。豹魔は珍しく裸眼の状態で、顔を下げていた。
「まったく、愚か者めが」
 不意に叱咤する声が天井から聞こえる。豹魔は顔を上げなかった。同時に空からふありと、少女が降ってきた。ロングのスカートがパラソルの様に広がって下半身があらわになる。膝を曲げだが、少女は気にとめた様子もない。銀色のきめの細かい髪も、大量の空気の抵抗をはらんで宙に舞う。結い上げた髪の毛を飾る赤いリボン。チャームポイントのおでこ。年端もいかない少女だ。年の頃は、12~4歳と言ったぐらいだろうか? 瞳を細め、睨み付けるような眼差しで豹魔を眺めている。
 豹魔よりもはるかに低い背格好をしているが、不思議と彼女の身体から、威圧感が感じられた。それは威厳とでも言うのだろうか? 彼女の眼差しを凝視していると、思わず目をそらしてしまう。そんな感じがする。
 だが、豹魔には、その威厳も通じなかった。少女の体は、大きく溜息をついた。
「まったく、目先のことばかりにとらわれおってからに、少しは落ち着かぬか、主があまりに無理をするから、拘束をせねばならなくなるのだ。仇を討ちたい気持ちはわかるが、もう少しばかり冷静になれ!」
 豹魔は沈黙を持って答えた。
「こやつは……」少女は、頭を抱える。「おぬしは自分が何をしたのか、わかっておらぬのか?」
 少女はそういうと豹魔をにらみつけた。だが、そういう威圧は、豹魔には通じない。
 豹魔は、ようやっと、そしてゆっくりと顔を上げた。どこか挑むような雰囲気で、少女の威圧感を受け止めている。
「なんじゃ?」と少女はつぶやいた。
「俺には俺なりの目的があって狩人になった。そう、言わなかったか?」
「ああ、言うたな。じゃが、おぬしは、ひとつ勘違いしておる」
「勘違い?」
「そうじゃ。狩人の仕事は仇を討つことではないということじゃ。違うか?」
「ああ、そうだったな」
「ならば、あぜ、あのような愚かなことをした? あの時、わしの言うことを聞かなんだのじゃ?」
「どのみち倒さねばならないアヤカシだ。あの時倒そうと、あとで倒そうと、なにも変わらない」
 少女は顔に手を当てると、力強く溜息をついた。
「そこが、考え違いじゃというのだ」
「どこが違う? あのあと、無事に探し出せる保証がどこにある? ならば、強引にでも追って倒すべきなんじゃないのか」
「それは、間違っておらぬかもしれぬな」と少女。「じゃがな、あの時、ぬしは復讐することに心を奪われておった。普通の状態ではなかったであろう? 反論できるものならしてみるがよい!」
 豹魔は異形のまなざしを持って、少女を見つめていた。
「そのような、浮ついた心では、狩人失格じゃぞ? もったいない」
「おれは、それでいい」
「なにがじゃ?」
「おれのこの力は、仇を討つ力だ。狩人失格でもかまわない」
「この痴れ者め!」
 少女の激昂した声が、狭い社の中に響き渡った。豹魔は動じなかった。

      四

 一昔前のTVドラマによく出てくるような古びた1Kのアパート。
 玄関ドアの横には台所。そしてトイレと浴室が別々である。
 台所からすぐに居間につながる。
 床は畳敷き。台所は板張り。キッチンはやや大きめで四畳半、居間のほうは六畳。
 学生が一人で住むような安下宿。そう形容すればわかりやすいだろうか?
 独 静(ひとり しずか)は、その安アパートの台所で、コトコトと音を立てる鍋を前にしている。お玉で鍋で煮込んでいるクリームシチューを掬い取った。そっと口元に運ぶと唇をすぼめ、ふーふー、息を吹きかけ冷ます。それからすすり上げた。
「うんっ! 完璧」
 クリームシチュー独特の甘味、そして体の心からあったまる愛情たっぷりの熱が、喉から胃に流れ落ち体を温めた。六月も末とは言え、夜は少し冷えこむ。
「これなら豹魔さんも喜んでくれるよね」と一人ごちる。「今日のシチューは完璧! パーフェクト! これでまずいなんて、絶対に言わせないんだからね」
 静は満足そうに声をあげガッポーズを作る。そのあと、不意にはにゅ~っと頬が緩んだ。顔全体に野菊の花が咲いたようなかわいらしい微笑みを浮かべる。それ見たら、誰もがつられて表情を崩しかねない。そんな影響力をもった強力な笑顔だった。
「うふふっ、豹魔さんってば、クリームシチューが好物だって事ぐらい。あたしちゃんと知ってるんだから」そこまで言うと、一瞬気合を入れ。「今日こそはぜぇったい! ぜったい! 絶対に、おいしいよって言わせてやる」
 静は、くるくるとお玉で鍋をかき混ぜる。そのあと蓋をしてコンロの火を止めた。
 その幼い背丈で台所に立つのは難しいらしく、足元には台がおいてある。
 ひょいっと足音を殺して台から下りるとトテトテと愛らしい足音を立て、居間へと移動する。台所から居間へ通じるガラス戸は開いたままだ。それから時計に視線を移した。
「もう戌の刻か……豹魔さん、大丈夫かなぁ。一度命令を無視したから査問会を開くなんて………大げさだよ。ちゃんと中尸は倒したのに」
 静は、心配そうにつぶやくと、ゆっくりと座布団の上に腰を下ろして、目の前のちゃぶ台にひじをつく、部屋の中のなにもない空間をぼんやりと眺めていた。
「豹魔さん、おそいなぁ。プルヌス様の使い、まだ来ないなぁ」
 コチコチと時計の針が動く音だけが、その空間を支配する。
 その音の中にくぅうっと愛らしく、そしてどこか痛々しく静の腹時計の音が混ざりこんだ。「あっ」静の頬が真っ赤になる。
 静は、ひじを突いた状態で頬に手を当て「豹魔さん、無事なのかなぁ」と照れ隠しにつぶやいた。そのあと、崩れるようにちゃぶ台に顔を寄せている。
「ひょ……う…ま、さん」
 静は、いつしか、こっくり、こっくりと舟をこいでいた。
「ひょ…う」
 カチコチと時計の針は、音を立てて進んでいた。
 少女一人にとって、大きすぎる空間。ちゃぶ台と蛍光灯と、和箪笥、それ以外は何もない。質素な居間。大量の空気と時計の音だけが支配している。
 ちゃぶ台の上には、さかさまになったお茶碗とラップに包まれたおしんこ。サラダは、冷蔵庫の中、温めればすぐ食べられるクリームシチューが鍋の中にたっぷりと用意されている。静の傍らには電子ジャー。当然、食事の用意は、豹魔と静の二人分。
 待ちくたびれたのか、無防備な姿勢で、眠りこけていた。
 その愛くるしい小さな唇から時折漏れる寝息。
 時計の針は、いつしか丑三つを回っていた。
 その瞬間、空気が重たくなった。ともすれば、気がつかないほどの変化だったかもしれない。事実普通の人間だったら何気なくすごしていただろう。
 しかし、すぅすぅと、眠る静の寝息が不意に止まった。
 その瞳をパッチリと見開くと、不意に体を起こす。
 なにかの気配を感じ、背後を振り返った。玄関の扉の向こうになにかの気配を感じる。それは明らかに殺意をもっていた。
 静は、ひざ立ちの姿勢で右腕を肩から水平に伸ばす。だらりとした服の袖が落ちる。袖の中をなにかが、ぶくぶくと波を打って走った。そのなにかがぴしりと音を立て、静の手首に巻きつく。
「誰?」
 警告ともつかない真剣な声。その中にわずかながらに殺気が含まれている。
「誰なの?」
 この気配は、豹魔ではない。そもそも彼が帰るという連絡をプルヌスの使いから聞かされていない。自分がいなければ、彼はこのアパートには帰ることのできない体なのだから……。そして彼から邪険に扱われたことはあっても、敵意を抱かれたことはない。
 静は、彼が寂しいだけなのだということを知っていた。
 そう、誰よりも、痛いほど、苦しいほどに。
 静の身の回りの空気がきゅうっと少女を包み込むように、円く世界を閉じる感じで重たくなってゆく。
「結界は反応してない……だとしたら?」
 まさか同族? だとしたら、神か、退魔師しかいない。
 そうだとしても、この殺気はおかしかった。どうして同族が狙ってくる?
 明らかに静に対して殺意が含まれていた。足に力をこめる。
 力はいつでも使える。そっと膝を立てて、ゆっくりと立ち上がる。
 玄関の扉の向こう、確実になにかいる。静は警戒していた。
 はっきりと、静に術を行使している。自分を包む空間が閉じようとしていた。
 まるで重量が増えたように空気がずるずると幕を下ろしてゆく。
 異様な力は玄関の扉の向こうから産まれている。
「攻撃するべきかな?」
 静は、そっと左手の掌を開いた。感じたことのない力。おそらく日本のそれじゃない。そうなると西洋の魔術だ。
 未知の力との対峙。術がわからないうちに完遂されたとき、自分はもう動けなくなるだろう。だとしたら、一気に決めるしかない。そのためには、右手だけでなく、両手を使った方が良い。静はそう判断する。
「豹魔さん。部屋、めちゃくちゃにするけど、ごめん」
 そう一言つぶやくと床を蹴った。
 左腕の袖が、膨らむ。
 少女の小さな掌を醜悪な肉の塊がぶくぶくとおおいはじめる。その肉塊で、正面の扉を殴りつける。轟音が生じ、目の前の扉が文字通り消滅した。次の瞬間、エネルギィの衝撃が、波となり、びりびりと大気を振るわせた。振動は、瞬く間に周囲に広がり、扉の向こうにあった敵の体を吹き飛ばす。
 その衝撃に吹き飛ばされた敵は、おぼつかない感じで、空を泳ぐ。
 静は、ねらいすまし右手を振り下ろす。
 流れるような追撃。静の右手に巻きついていた存在が、蔓のように伸び、勢い増してパンっ! と音の壁を打ち破った。
 一点に集中したその力は、衝撃力を持ってその存在を地面に叩きつけた。
「ぐぁああ!」
 アスファルトへの激突! 肉の生々しい音が広がる。
 静が攻撃した敵は地面の上で、苦しそうに息をついた。
 ただの二発。正式には、蔓の一撃なのだが、それで、すべてのカタがついた。
 一人の男がピクピクとその全身を痙攣させながら、アスファルトの上で転がっていた。
「えっと……」
 静は、呆然と自分が叩きのめした存在を見下ろしていた。
 初めて見る長身の青年。
「この人誰?」
 背丈は、豹魔よりも間違いなく高い。そしてまぎれもなく人間だった。
 周囲の空気は、感じたことのないような甘い香りがした。その顔をそっと覗き込むと瞳の色が青い。見たことのない清んだ瞳だった。
 青年の体を包む気配は少なくとも邪悪なものではなかった。
「この気配どこかで……うん。シーボルトさんと同じ匂いがする。でも、おかしいなぁ。シーボルトさんって、もう100年も前に死んじゃったはずだし」

     『猫目のアヤカシ』~闇に遊ぶモノ~
     第一部 第二話 ブログ用二段 了

『猫目のアヤカシ』  第一部 二話 ~闇に遊ぶモノ~ ブログ用一段

2009/03/09 02:16
 生きていた。

 ただ、無作為に生きていた。

 重い。重たい人生を生きていた。

 わずか14年だが、それでもわずらわしく、わたしの両肩にのしかかってきた。

 呼吸をするのもめんどくさかった。

 母も、父も、友人も、彼氏も、後輩も、先輩も、すべてがうっとうしかった。

 そんなときだった。
 わたしは、力を手に入れた。

 闇の中で遊ぶ力。

 ふつうじゃないちから。

    『猫目のアヤカシ』
      ~闇に遊ぶモノ~
              文 黒田百年
              絵 蔓

      一

 少女が社の屋根の上に立っていた。無造作に、さもあたりまえといわんばかりの姿勢をして。場所は、伏見稲荷の大社のその屋根の上。
 薄い空色のワンピース。腰には大きな青いリボン。プラチナロンドの髪の毛は、丁寧に結い上げ赤いリボンで止めている。おでこがさもチャームポイントだ言わんばかりに目立っていた。すんだ瞳をしていた。深く、吸い込まれるような青。深い森を散策しているときにふと見つける透き通った泉と同じ色をしている。
 その少女が、錫杖を手にして空を見上げている。その視線の先には、どんよりと暗い夜がそこにあった。
 暗い夜といっても、ただ暗い夜ではない。どんよりとしているのだ。
 星が浮かばない青黒い空に、重く沈みこんだ雲が、垂れ込めるようにどよどよと浮かんで、星空を覆い尽くしている。時折雲の切れ間から星は顔を覗かせるが、雲間に穴を穿つほどの力はない。月明かりも雲に駆逐され、よりいっそう、闇を濃いものにしていた。
「よくない兆候じゃな。しかし豹魔の奴。簡単な挑発に引っかかりおって、静の奴なにかを勘づいておったのかもしれぬな」
 しみじみと呟いてから、少女は、錫杖を掲げ大きく円を描くように振る。
「とりあえず、ゆくとするか。豹魔のヤツめ、わしも忙しいというのに余計な仕事を増やしおってからに」
 しゃらん! っと、すんだ金属音が、その錫杖の先端の金属が重なって大きな音を立てる。地面に光が走った。線を描き、彼女の足元でくるりと真円を描く。
 輪が閉じると同時に、屋根がほのほのと光を上げた。
 少女は錫杖を肩の高さで真横に寝かせると、整った口を開けなにごとか唱え始めた。
「――――! ―――! ――!」
 やがて輪から立ち上った光は、筋を作り、束となり、少女の身を包み込む。
 光は少女の全身を飲み込む、そして屋根の上から消えた。

      二

 うっすらと停滞した空気が、少女の部屋の中に堆積していた。
 ドアは閉じられ、窓も閉められ、外界と遮断された空間。
 不意に部屋の中の空気が動く。西安寺 桜(さいあんじ さくら)の部屋のドアが開いた。
 ゆらりとドアが開き、堆積していたはずの空気が踊った。
 薄暗い部屋の中に一人の美少女が、現れる、黒く長い髪の毛。
 桜は、セーラー服の上着が破れ、ブラジャーが丸出しの状態で、恥じらいも見せないままに部屋の中へと入る。
 手慣れた仕草で、無造作に上着とスカートを脱ぎ捨てベッドの上に寝転んだ。
 ベッドのスプリングが、きしんだ音を立てた。
 ぼんやりと自分が投げ捨てた上着を眺めている。
 破れた制服の上着と雨にぬれたスカートが、今夜の出来事が嘘でないと告げていた。
 信じられないものを見た。信じられないのは化け物がではない。
 あの青年の素顔、それを見た瞬間、思わず悲鳴をあげた。
 なんと言う瞳だろう。しかもそれはわたしを見ていなかった。
 異形。
 わたしはそれを見上げた。
 なのにかれはわたしを見ていなかった。それが許せなかった。
 わたしをこの世界から救い出してくれるものを目の前で殺したのだから。わたしを見るべきだったはず。わたしが描いたもの。わたしが創造したもの。それがわたしを殺してくれるはずだったのに。
 それを止めた青年。
 わたしの平手を受けて、悲しそうにつぶやいた。
「―――――」と。
 それだけ言うと、雨の中、消えてしまった。
 少女を伴って……。
 わたしは、雨に打たれたまま追いかけることができなかった。
 追いかけるべきだったのだ。
 なのに追いかけることはできなかった。
 見る間に少女に手を取られると二人そろって走り出しフェンスを飛び越え消えてしまった。
 途中、何度か少女は振り返ってわたしを見たけど、その足は止まらなかった。
 申し訳なさそうな悲しい顔を見せたけど、その足を止めることはなかった。
 血が含まれた雨。そして、わたしの目の前にいた使者は、うっすらと消えてゆく。
 全身を汚した雨。思わず、大声をあげていた。
 誰に伝えるわけでもなく、わたし自身が叫んでいただけ。
 悔しかった。悲しかった。そして辛かった。
 あの無機質な瞳が脳裏に浮かんだ。
 はたしてあの瞳は、少しでもわたしを見ていたのだろうか?
 わからない。
 そっと顔を腕で覆った。
 涙が、なぜか流れた。
 死に損なったからだろうか?
 それともあの瞳を見てしまったからだろうか?
 わからない。わからない。わからない。わからない。
 乱暴に手を投げ出した。マット上にわたしの腕が広がり、それを受け止める。
 しばらくして、わたしは、窮屈さを感じ体を起こした。
 制服は破れてしまった。明日、どうすれば良いだろう? 
 予備の夏服はある。だけど、学校には行きたくない。
 それならいっそのこと、さぼろうか? 
 それが良いかもしれない。そう考えると、なぜか、わたしのお腹がずくりと痛んだ。
 剥き出しのお腹の上をそっとなでる。
 なぜかもぞもぞと明確にわたしの体の内側で腸が動いたような気がした。


     『猫目のアヤカシ』~闇に遊ぶモノ~
     第一部 第二話  ブログ用一段 了

『猫目のアヤカシ』 第一部 第一話  ブログ用六段 ~欲を喰らふモノ~

2008/11/22 02:07
      十三

 その時、わたしはなぜ? と思わなかった。
 目の前に現れた、それはなんと呼ぶべきか分からない。
 ただ、わたしの描いた絵と同じだった。この世を喰らうもの。
 本当に存在したのだと歓喜すら覚えた。
 これは使いだ。わたしを導く使い。
 自分の描いたキャンバスから現実の世界へと抜け出てきたのだと。
 それがわたしを喰らうためにやってきたことは、明白だった。
 どういう理由で、それは存在して、わたしの元へときたのかは、分からない。
 ただそれは、わたしを殺しに来たのだ。
 死ぬ勇気のないわたしをこの世のしがらみから救い出してくれるのだ。
 だから楽しみだった。
 至福の時はやってこなかった。
 目の前に躍り込んだ見ず知らずの男と小さな少女が、目の前の異形を吹き飛ばしたからだ。
 わたしは、目を見張った。
 目の前にいるのは、青年だった。
 わたしよりも背が高いにんげんだった。
 にんげんが、わたしの描いた餓鬼を圧倒していた。
 その結末を遠くから眺めることができず、わたしは走り出していた。
 自分の姿など気にならなかった。慌てて、校庭まで走り出ると、その様を眺めた。
 ひぃひぃと、悲鳴が届いてくる。
 わたしの耳元に。
 一方的な暴力を受けて嘆く苦しむ赤ん坊のようだった。
 信じられなかった。信じたくなかった。
 あの太い腕、そして、巨体を。
 どこから見ても、わたしの理想だった肉の塊を無造作に殴りつけては、地面に這わせていた。
 わたしは思わず声を上げていた。
「やめて!」とも「殺さないで!」とも。
 だが、青年は躊躇わなかった。
 一方的な暴力で、わたしに至福の時を与えるモノを………。

      十五

 雨の中、月明かりも一緒になって降りそそいでいた。
 一人と一頭を……。
 桜は、それを見ていた。
 胸元に手を当て、はらはらと涙を流し。
 豹魔は、怒っていた。その怒りを全身で、現していた。
「にげだしてんじゃねーよ」
 そう告げると、懐、股の間に潜り込んで、中尸の体勢を崩して、投げる。
 足元から払うように腕で、掬ってやれば巨体はバランスをつかむのは難しい。
 その巨体は、自ら地面へとへたり込む。
 地響きをたて、周囲の大気を震わせ。
 もうそれには戦う気力はないのは目に見えて明らかだった。
 豹魔はゆっくりと杖を構えると、
「この前の続きだ。分かってるだろ?」
 杖の柄、鍔元を親指で軽く撫でる。
 金具がくるりと回った。
 豹魔は、一瞬、腰をたわめ、後ろ足で地を蹴ると、さながら波のうねりの様に一歩ごとに力を溜め、混め、暴力の塊へと変化させ、動き出していた。
 中尸はかなわぬと知ってか、豹魔の動きに合わせて、校庭の土を蹴り、最後のあがきとばかりに、彼の動きに答えていた。
 そしてすれ違いざまに、剣光が一閃した。

      十六

 肉が爆ぜ、鮮血が宙に舞う。
 まさに血の雨。
 それが、本物の雨と重なり。
 大地を汚した。
 雨は禊ぎ。恵みのはずだった。
 汚れと禊ぎと。
 力強く混ざり合った。

      十七

 少女は、ふらふらと歩み寄った。
 青年へと向かって。
 少女は、力無く、うつろいだ躯のように交互に足を動かしていた。
 青年は、顔を上げると悲しげに何事か呟いた。
 少女の耳には、それは当然届かない。
 青年は、雨をその頬と全身で受け止めていた。
 少女は、やっと青年の側へとたどり着いた。思いきりその頬を平手で、打った。
 青年は、無防備のままにその平手を頬で受けた。サングラスが飛んだ。
 少女は、青年の顔を見上げると、悲鳴を上げた。

      十八

 物語はここから、全てはここから始まった。




     『猫目のアヤカシ』~欲を喰らふモノ~ 
     第一部 第一話  ブログ用六段 了

     『猫目のアヤカシ』~闇に遊ぶモノ~
     第一部 第二話  ブログ用一段 へ続く
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